コミュニケーション?

月曜日。
夜、いつものように苦楽園から原付でうちまで帰る。

寒い寒い風の中、ふわふわといろんなことを思い出しながら進んでいく。
寒いのでスピードをあげる。早く帰らなきゃ凍りそうだ。
越木岩神社を右手にみる道の途中で、暗闇の中に突然、異様な大きいかたまりが目の前に現れた。

「イノシシ」と言葉が浮かぶより前に体が恐怖する。
「どうしよう!」と思うよりもっともっと多くのことを体がすでに準備していた。

声にならない叫び声があがる。
しかし、それはイノシシも同じだった。

もちろん言葉なんてまったく交わさなかった。
けれど、そのときイノシシが感じた恐怖を、私は一瞬のうちに体に吸い込んだ。
その瞬間に、ほんの一瞬だったけれど、私たちは確実に交流した。
すっと何かが触れ合った瞬間。
イノシシは、そのまま道の向こうに全力で逃げていった。



火曜日。
夜、またいつものように駐輪場に向かう。

寒いので、原付のシートにいれてあるコートを着込む。
私がいそいそと準備していると、向こうのほうからとっとっとっ・・と猫がやってくるのがわかった。

マフラーを巻きなおしながら、私がなんとはなしに猫の様子を目で追っていると、私の原付のちょうど目の前のところで猫がぴたっと立ち止まる。


こちらを向く猫。
沈黙。
目がぴったりと合う。


1・2・3・・・


また、とっとっと・・と去っていった。




言葉のない交流。


猫がなんと思ったかなんてわからない。
ひょっとしたらこちらに伝えたいメッセージがあったかもしれない。
イノシシだって、どのくらい死の恐怖を感じたかわからない。
すべては私の憶測。


だけど、その感覚。
私と彼らの間で起こった交流。その感覚。
どきっと、あるいはそっと、ぴったりと、触れ合う感じがした。




コミュニケーションという言葉に収めたくない感覚が、やはり私の中にあるのだ。