体験

家族に「愛してる」とは言わない。

友だちにも「愛してる」と言わない。

あの人に「愛してる」と言っても、言ってしまうとずれていく。
言ったそばから「違う」と言ってしまう。
こんな5文字には置き換えられない。



会うと、思い出すと、とにかく溢れるものがある。
相手から受けとるものがある。
それを言葉にしなくていい。
言葉になんて、できるわけがない。
「愛」という言葉で、簡単に処理したくない。


自分の中と、相手から感じ取るものとに溺れそうになるくらい、溢れ、それを言葉にできずにどうしようもないので泣いてしまうことがある。
泣いて、道端に崩れそうになる。




生きる目的など、ないと思う。
生きる意味も、特にない。


けれどそれでも生きていて、ふいにこんな瞬間に出会うとき、私は生まれてみてよかったなぁと心から思う。



それは幸せとか喜びとかいった感情ではなく、目的でも意味でもない。

ただそこにある「体験」なのだと思う。