賢治

昨日のこと。

昼過ぎに改札で待っていると、その人は濃く青いシャツをきてやってきた。

改札の遠くから「よ!」と言ってそうな顔をして、一度きり大きく片手をあげた。
私は片手をふってそれにこたえる。


外は暑く、陽射しは夏そのものだった。
家の中は涼しく、東と南に向いた窓から風が入ってくる。

彼がキウイの皮を剥く。
私はたくさん氷を浮かべたカルピスをつくる。
氷を動かすと、からからと冷たい音。


夜。
駅まで見送る。
昼の太陽がアスファルトに匂いを残している。

改札までは行かず、その少し手前で習字の「はらい」をするように、しゅうっと手を離す。
少し押し出すような気持ちになるのは、自分のためでもある。


本屋が23時までやっているのを思い出し、いってみる。
宮沢賢治の詩集。
あった。税込540円。

小銭入れに575円入っていた。
ようやく宮沢賢治に触れるときが来たなぁと思う。

手に本を抱えて家に帰ると23時で、突然身体のスイッチが切れた。


なにかとても大切な日だった。