結び目
日常の、着たくもないスーツを着て、重たい鞄を肩に掛け、
同じ電車、同じ道を歩き、
あー今月こそはダメかもしれないとか、あーあれはどうしようこうしようと
そんな日常のなか、
ふいに出くわす感覚があって
たとえば同じ空でも、その意味が全く違ってしまうような、
人の流れがかけがえのないものとして眼に飛び込んでくるような、
そういう不思議な体験が、ささいな日々のなかで突然起こる。
その感覚をどうにか言葉にしたり、写真に収めてみたりできればいいけれど、
その生の感じに追いつく手段がなくて、テクニックもなくて、この歯がゆさ。
誰かと共感、共有したいかどうかはわからないから出来なくたっていいのかも。
と思えども、ほんとにいいのか。この歯がゆさ。
今日、仕事の帰り。
ふいに気分が悪くなり、眼をつむる。
暗闇に浮かんだのは白い骨。
「骨にバターを塗る」
という完全な、そうとしか言いようのない言葉が出てきて、
感覚と言葉の珍しい歩み寄りに、なんだか少しの安心がもたらされた。
もっと掘り下げたいこの感覚は、言葉で考えるほどどんどんバターが塗られていく気持ちになり、
胃がつまったので止めた。
わたしが拙くも言葉を書いてみたり写真を撮ったりしてみるのは、
日常と、そこから突然飛び出してしまう感覚とを結ぶための、結び目のようなものなのだと思う。