兄のこと

兄がまだ何者でもなかった頃。
説明のしようがない、いわゆるフリーターであった頃のことなどをふっと思い出す。


30歳手前くらい。
短い期間ではあったけれど、宝塚でひとり暮らしをしていた。
きっとあれは父のお金だったのだろうと思う。


そのことを、おそらく中学生であったわたしは何の感慨も問題も感じなかったけれど、
いま思えば、親子ともどもあんなに不安定で苦しいことってなかったろうなぁ、なんて


その宝塚のアパートのことなど、
そこにわずかな家具を運び入れたときの匂いや、近くの雑木林が真っ黒に揺れていた、そのときの風の強さ。


今さらそんな過去に心が痛んだりして、

あのときそんな気持ちにならなくて、ほんとうによかったと思う。