言葉を釣る

誰かに話を聴いてもらっているとき、するするするーっと言葉が出てくることがある。
びっくりするくらいスムーズに、私の口が私の心を語りだす。


まるで、相手が私の口からそっと糸をたらして、釣りをしているみたいだ。


その糸は、私の心に通じている。
心というのは、どんくらい深いのかよく分からない水たまりのようなもの。
相手はそこにたらした糸を持ちながら、うんうん。と話を聴いてくれる。
ちょこちょこいじったり、あるいは黙ってじっと待っている。


で、何かヒットしたら静かに静かに糸を引き上げてくれる。


そうすると、私の心から、何か手ごたえのあるものが引き上げられてくる。
それが言葉になる。


するするするーっと私は自分の心を語れるようになる。


そういうことなんじゃないか、と思った。


あっ、釣ってくれてる。
そんな風に感じた。




色んな人が、私の心の色んなスポットに糸をたらしてくれる。


もちろん似たようなところにみんなの糸が集中することもある。
あーまたそこに糸たらされたか、みたいな感じ。
でも、釣り人によって釣れるものが違ったりもする。




見えない糸を見えない水たまりにたらして。
そういう時間。そういう相手。


宝物だと思う。