思えば私の家族にも、いろんなドラマがあった。



お昼。父と母と3人でごはんを食べにいって、ゆったり話をしながら、ほんとうにさらっと父が「あなたがいなかったら、うちは壊れていただろうね」と言った。
「俺はあいつに何したか分からないよ。事件沙汰だったでしょうねぇ」そう言ってほがらかにハハハと笑いながらビールを飲む父。


あいつ、とは私の兄のことだ。
私より13歳年上の兄。


兄が20代の頃、とにかく父と兄はかなりまずい状態だった。
これからどうやって生きていくのか、親に何も示せない兄。
強烈に心配し、静かに怒り狂っている父。板ばさみに苦しむ母。


当時小学生の私はというと、100%いや120%くらい兄の味方だった。
強烈な支持者だった。兄を責める父に、腹を立ててさえいた。

兄の支持、というより、銀行マンとして敷かれたレールの上をすーっと生きてきたように見える父を否定したかったのかもしれない。
自分の本当にしたいことを追及する生き方を選ぶ兄のほうが立派なように感じていた。
今思えば、誰に食べさせてもらってきたんだ!!と叱りたいけれど・・
父親の偉大さを知ったのは、働き始めてからだ。
それまでは、父ダメ、兄がんばれ。の立場。


それに、兄のことを、こいつなら絶対やれる。こいつすごい。といつも思っていた。
思う、というより、それは当然という感じだった。
兄の才能や能力を疑ったことは、物心ついてから一度もない。一瞬たりともない。
今も変わらずそう確信している。こいつすごい。何か知らんけどすごいことをやる男。


こんな調子で、一貫して兄支持の立場を通していた。
家族の空気もおかまいなし。
おとーさん分かってない!!!と否定しまくっていた。



で、そんな父から今日「あなたがいなかったら、」と言われて、何だかそこに大切なものを感じた。
私は別に、家の空気を和らげたかったわけじゃない。
兄をなぐさめつつ、父にも優しくしつつ、なんてそんなことをしなかった。
どちらに気を遣ったわけでもない。
自分の立場で、思ったことをわーわー言いまくっていただけだった。
第一、めちゃくちゃ偉そうなことを言って、兄と一緒に父にケンカを売っていたのに。


でも、結果的にそれが父を救った。ぎりぎりで何かを繋ぎつづけることが出来た。
救うつもりはなかったんだけど、結果的にそうなったらしい。
うれしかった。





「お父さん。私はね、いつもほんとーにめちゃくちゃ恵まれてるわ」と残りのビールを飲みながら言うと、
「そりゃそうだろ、恵子だもの!」と陽気に返す。


そうだね。
いい名前、ありがと。